【噂となっている越境EC税制改革の内容とは?】
現時点では大きな変更点として、以下の3つが挙げられています。
1. これまでの貨物当たりの輸入金額上限を、1000元から2000元にアップする。但し、個人輸入総額の上限は、年間2万元までとする
2. 一般貿易において、実質取引価額(港着価格)に対する輸入増値税、消費税を、30%減免とする。ここにおいて大部分となる、消費税の影響を受けない製品は、 (従来)17%×(減免)0.7=(実質税率)11.9% の減税となる。 これに伴い、税収減を防ぐ調整の意味で、輸入増値税、消費税の免税規定を取り消す。即ち、50元以下の免税規定を取り消すことを意味する。(※消費税というのは、増値税とは別に、お酒など嗜好品と見なされたカテゴリーの製品にかかる、ぜいたく税のようなものです)
3. 合計金額2000元を超える貨物は、一般貿易扱いとして税徴収を行う
こう書かれていても、その意味を具体的に理解するのは簡単でありません。上記の3点に関し、「EMSを利用し、日本から製品を購入し、中国で個人輸入をした」という前提で、順番に解説をしたいと思います。
【1:個人輸入の輸入限度額計算法】
個人輸入の際、1梱包の貨物に対して「輸入金額(購入金額)の上限」が定められており、現行では以下の通りとなっています。
- パターン1:商品A単品の単価が1000元以上である ⇒ 輸入OK
- パターン2:商品Aと商品Bはセットになっており、セット販売価格が1000元以上である ⇒ 輸入OK
- パターン3:商品A(700元)と商品B(850元)を1梱包にする ⇒ 合計金額が1550元と1000元を超えているので輸入不可
しかしながら、高単価で小さく軽い商品をわざわざ別梱包で送るのは、余分な配送費や出荷、購入、決済の手間が発生してしまいます。そこでより越境ECを利用しての購入がしやすくなるよう、従来の1000元の上限を2000元まで引き上げる、という主旨の改定になります。新ルールであれば、パターン3も輸入OKとなりますね。
【2:関税額50元以下はフリーの定義】
実は今回、最も影響が大きいとみられるのが、この50元の免税枠の撤廃です。この関税額は、以下のように算出します。
- パターン1:装飾品A 100元 × 関税率20% と、衣類B 140元 × 関税率20% = 関税額48元 ⇒ 50元以下なので免税
- パターン2:装飾品A 120元 × 関税率20% と、衣類B 140元 × 関税率20% = 関税額52元 ⇒ 50元以上なので課税
これをもう少し詳しく見て行きましょう。ケーススタディです。
『非常に軽量で小さく、EMSで300g扱い(日本から中国まで900円)で配送が可能な、「商品A」を中心に販売する越境EC運営会社、「転売商事」のメイン販売製品の情報は以下の通りです』
為替(仮):1元 = 17円
販売価格:480元 = 8160円
仕入原価 5800円
EMS配送料金 900円
利益:8160-5800-900 = 1460円/個
(関税は480元×10%=48元なのでフリー)
ところが、もし関税を購入者が負担せず、その分を値引きして販売することになったらどうでしょう?
販売価格 432元 7344円
仕入金額 5800円
EMS 900円(改定後、300g枠なくなり500g枠、更に値上げ)
利益:7344-5800-900 = 644円/個
(関税は43.2元かかるが、これは荷受人が納税)
利益が一気に816円も減ってしまいます。もちろん関税分を価格に上乗せもできますが、販売数の減少や、後になって関税未払いによる返品などのリスクが高まります。
参考までに、2016年6月1日からの、改定後EMS配送料金を適応すると、更に利益が減少します。
販売価格 432元 7344円
仕入金額 5800円
EMS 1400円(改定後、300g枠なくなる上、500g枠も値上げ)
利益:7344-5800-1400 = 144円/個
関税の免税枠撤廃というのは、特に直接個人宅向けに輸出をしている越境ECサイトにとって、頭を抱えざるを得ない死活問題なのです。
【3:購入制限金額を超えている貨物の扱い】
従来は、この個人輸入制限金額を超えた梱包の貨物は、輸入ができませんでした。とは言え、さほど厳格に検査をされてきたわけではなく、2015年初め頃までは「実質制限はない」と言われているようなルールに過ぎません。
ところが越境ECの取扱量が増加する一方の現在、本規定も柔軟な対応が必要となりました。その結果「2000元を超えても輸入はさせるが、個人輸入ではなく一般輸入と見なして課税を行う」という、規制緩和を行う一方で、より厳格に税金を徴収するという方向性を打ち出しています。
【何故これらの改定が必要なのか】
ひとつには増値税、消費税、関税(行郵税)の厳格な徴収という事が言えるでしょう。
同時に一般貿易に対しての優遇も進んでおり、段階的に様々なカテゴリーの製品の関税率、消費税率を下げています。
越境EC運営会社にばかり海外製品の販売が偏ると、一般貿易においてこれまで機能をしてきた問屋、小売店の売上にも大きく影響するため、そこも配慮していると考えられます。
更に別の見方をすれば、越境EC、一般貿易に関わらず、法規制をしっかり確立することで、ルールに従う限りは、自由に中国国内で消費活動を行わせることを最大の目的としていると言えます。
その点では、EMS等を利用する個人宅向け越境ECと、皆さまお馴染み日本での「爆買い→ハンドキャリーで中国国内へ持ち込み→転売」という、この2つのルートに対しての規制がますます厳しくなってくる事は十分に予想されます。
【制度改正が本当だとすれば、施行はいつから?】
2016年4月8日からであるという説がありますが、そこまで早く施行はできないという意見が多数です。なぜなら、税関の全国統一システムが未整備であることや、EMS等個人輸入者の身分証明紹介などの問題もまだ未解決で、残り1か月で新政策が施行できる体勢を整わせるのは実際に至難の業です。
他方、広州税関にて4月8日からテスト運用するという説もあり、今後も注視していく必要があります。
また、こういった情報は、昨年8月にも「中国税関検査厳格化」というニュースが流れたものの、実際はデマであったりと、施行されるまでは100%信用できません。
とは言え、EMS小包の開封率の上昇、転売と思しき荷物の日本への返送、一部人気商品の見なし行郵税率の変更など、ここ数カ月一連の動きを見ている限り、今回の制度改正は中国税関にとって合理的で、可能性は十分にあると言えます。
中国における頻繁なルール改正は、特に珍しいことではありません。皆様も情報収集を怠ることなく、柔軟に越境ビジネスに取り組んでくださいね。
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