【やはり急すぎた?政府の思惑と現場の実態に大きな隔たりが】
新制度による越境ECの運用が開始されて、すでに一カ月が経過しました。その間B2C輸入を行う多くの企業が輸入案件の減少、入庫できない貨物の増加などの憂き目にあっただけでなく、各地の国検局や税関にしても、各港の情況に合わせ、独自の解釈で通関入庫手続きを実行するなど、多くの問題が生じました。
そんな中、中国政府関係機関の「越境ECに関する全体調整会議」において、越境EC輸入発展促進のための、最終統一意見がまとめられました。重要なポイントとしましては、
・税率調整は保留
・その他手続き等は従来の方法に従って行う
・新たに合理的な監督管理制度がつくり上げられるまで、移行期間を1年延長する
というところでしょうか。
新制度は今でも模索中の段階であると言えますが、それでも継続してさまざまな調整と研究を重ねています。その結果、業界と市場の発展のため、新制度への移行期間を延長する方向で意見が一致しました。直接的には表明していませんが、あまりにも急な変更であったことを認めた格好ですね。
【越境ECという市場の本質を定義するのは容易ではない】
そもそもこの新制度というのは、税徴収に公平性を課すことありきの突発的な政策であることから、現場の実態に即していない面が多く、今なお多くのトラブルをもたらしています。中央政府関係機関も見て見ぬふりをしていたわけではなく、4月下旬ごろからの約半月間、越境EC輸入運用に関する研究委員会を設置し、財政部、商務部、品質検査局等の部門と、個別に絶え間ない議論を続けてきました。
しかしながら、第一財経(中国のメディア)の記者によれば、新制度が実施されて以来、多くの越境EC企業が品目や在庫の整理に追われつつ、同時に品質検査局を始めとする関係部門からの正式な運用に関する指示や、細則の発表を待っていました。ところが各地の港は各自で勝手に新制度の解釈をし、それぞれ全く異なるやり方で運用をしてしまったのです。全国統一基準に対応すべく神経をすり減らしてきた輸入企業にとっては、不満以外の何者でもありません。
いかにしてこういったマイナスの要素を削りつつ、新制度の運用ができるのか?これは非常に難しい問題です。B2Cの越境EC輸入ビジネスという、歴史の浅い、新しい業態の本質とは何かをどう定義づけるのか?また、どのように税収、貿易の公平性を保ち、商品の品質安全を追求していくか?短期間で集中した議論を重ねれば正しい答えを得ることができる、といった簡単な問題ではないのです。
その結果、冒頭でも述べましたように、5月5日午後、「越境ECに関する全体調整会議」を開催し、税率調整は保留、その他手続き等は以前の方法に従って行い、新たに合理的な監督管理制度がつくり上げられるまで、移行期間を1年延長すべき、という結論に達しました。これらは関係各部門で既に批准に関する署名が開始されており、近日中に公布される見通しです。
【B2C越境輸入の最難関はやはり「通関証明書」】
ある関係者が語るところによれば、この一年の移行延長期間において一時的に、新制度で定義された税制、及び商品リスト登録制度を保留し、その他は以前の輸入手続きを参照しながら運用をしていくということです。そしてこの延長期間を利用し、「個人向け輸入販売」をメインとした、B2C越境輸入の管理監督に見合った制度をつくり上げていく、としています。
ここで再三登場するこの「B2B」「B2C」に関して補足をいたしますと、本来保税区を利用した越境輸入ビジネスは、保税区へ入庫後、一般消費者へと商品を販売する「B2C」モデルが一般的でした。
しかしながら、輸入後に問屋等の企業へ卸していくのがメインである「B2B」の一般貿易輸入業者からすれば、課税、その手続きに必要な書類の準備などにおいて、どうしても不公平感がぬぐえません。新制度は、B2B輸入に大きく配慮をした内容であると言い換えても良いでしょう。
そこで登場した新制度において、B2C輸入業者が最も困惑しているのは、「通関証明書」の提出義務です。この証書なしに保税区への入庫はできないとされているのですが、この中には直接メーカーから入手しなければならない、正式な証明書類なども含まれています。しかしながら、現状メーカーの許諾を得てその製品を中国へ輸出を行っている業者はほとんどありません。
話を元に戻しますと、上記関係者の談話の内容からは、税制、商品登録制度変更に関しては保留の方向と言及しているのですが、通関証明書に関しては何も語られておらず、
「将来的に全ての保税区倉庫に入庫する輸入商品は、一般貿易と同じ方法で各種の輸入許可証を申請しなければならない」
という方向性に関しては、保留も変更もされない可能性が高いのかもしれません。とりわけ食品、薬品、健康食品、粉ミルクといった製品に対する要求はますます厳格になるのではないでしょうか?
【B2C越境輸入の取扱量が、新制度後は激減したものの】
第一財経の記者が提示した情報によりますと、新制度実施から半月以後、寧波、杭州、深セン、鄭州の保税区経由越境EC注文数が、割合で言うと平均約60%以上落ち込んでいるそうです。以前の30~40%の取引量、ということになります。
この大きな原因は、やはり中央政府が、越境B2Cというビジネスの価値や重要性など、その本質を定義できない、というところにありそうです。政府としては、保税区輸入モデルにおいてもB2B輸入が主流であるべき、と見なしており、今回の度重なる研究協議会においても、「越境ECの未来の方向性はB2Bにある」と結論付けたようです。とは言え、B2Cが発展しないとも言っていません。
品質検査総局の公布した細則の中にも、具体的な表現として、「貨物を保税区に入庫させる場合、一般貿易の方式、もしくは個人輸入の物品とみなして検査監督をする」、とあります。この表現からは、現場でこれらの貨物を保税区に入庫させて良いかどうかを決定できる、とも解釈できます。
また、第二弾の正面清単(輸入可能商品リスト)の中には、「貨物によって」という曖昧な表現があります。これは正に、2通りの検査監督方法をケースバイケースで判断できることを意味しています。
この2つの判断基準をセットにした通関方法が、既に公布されているか、公布のため根回しをされている状況です。
例えば当サイトにおいても「越境EC新制度施行後も、化粧品の輸入商品登録が簡素化できる!?」という記事でご紹介しました通り、5月5日の中国国務院が発表によれば、即日から2018年12月21日まで、上海浦東新区は、当面「化粧品衛星監督条例」に規定されている、特殊用途以外の化粧品(一般的な化粧品)の商品登録手続きの施行を見送りました。これは、将来の化粧品全般の輸入規則に対する緩和を示唆しているとも言えます。
それ以外にも、一般貿易での輸入でボトルネックとなっている通関の煩雑さの問題に関し、国務院は今でも、輸入全体がスムーズに行われるよう、簡易化の準備を続けています。輸入商品の価格、通関検査、輸入時の税徴収に関し国際基準に近づけていくと同時に、事後の検査も強化をしていく方針です。
これらの改革は、輸入の適正化、合理化、公平化を全面的に促進すると言えます。
【今後越境輸入ビジネスはどの方向へ向かうのか?】
現在、各地の港と輸入企業は、中央の政策の方向性を推量する以外、方法がありません。
そのため、すでにいくつかの企業は新制度の施行に伴い、自らの判断で、一部取扱製品を大陸外で在庫をし、外から顧客への直送方式に切り替えています。
たとえばその中のある企業は、新制度の急な実施に伴い、コンテナを利用し、影響を受けそうな製品を全て香港の保税区へ入庫させ、そこから顧客へ直送するように変更をしました。施行後すぐは、この直送小包の通関スピードは非常に遅く、通関が完了しない状況が続いたそうですが、4月25日頃から、新制度施行以前のスピードに戻ったと言っています。
この企業の責任者は第一財経の記者にこう話しています。今後正式に移行期間が設けられ、新制度の徹底した実行に猶予の時間が与えられたとしても、各地の税関自体が将来どう変化していくか見えているわけではない。我々は引き続き様子を見ながら、ふたつの道、すなわち、一般貿易のルール、もうひとつは従来の保税区輸入通関制度のルール、どちらの道に進んでも迷わないようにしなければならない、と。
日本においても、この越境輸出ビジネスに多くの投資をした企業は少なくありません。政策ひとつでそれらの投資が無駄にならないためにはどうすればよいのでしょう?
実際に朝令暮改といった様相で、新制度の施行、延長、特例、解釈の変更などが行われています。いざという時に「会社組織内の稟議等の問題」で対応が後手にならないよう、情報収集だけでなく、意思決定を含む体制の見直しも必須であると言えそうですね。
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